ジョンの死

その日、僕は千葉の駅ビルで”おこわ”を売っていました。”おこわ”知ってますよね！その店では「鳥おこわ、栗おこわ、山菜おこわ」の三種類を売ってましたが、それが飛ぶように売れるんです。立地もよかったし（駅ビルの1階入り口で、エスカレーターの前）味もよかった。そんな訳で、とても忙しかったけれど時間給1,000円は学生の身分としては当時としては悪くないバイトでした。

昼休み、僕はいそいそと3階のレコードショップへ。そうです、この日はジョンの5年振りの新作「ダブル・ファンタジー」を買う日だったのです。一口に5年と言いますが、今でこそアーティストのアルバム発表はインターバルが長いけど、その頃はみんな1年に１作は出してました。シングルなら年3～4曲ですか。
ましてや、多感な10代後半の時期です。ポールは毎年ヒット曲だしてたし、続々と新しいアーティストが登場していました。さすがのジョン･レノンも”このまま引退するのでは”と密かに囁かれていたものです。
それだけに彼の復活はビートルズ・ファンならずとも世界が注目していたのです。

夜8時、バイトを終え「ダブル・ファンタジー」を胸に抱えて帰って来たのはこの時間だったと思う。
ドアを開け玄関で靴を脱いでると奥から妹が勢いよく飛び出てきて”お兄ちゃん、John Lennon 死んじゃったよ！”　”え！”
リビングには父、母、祖母。僕のビートルズ好きは皆の知るところ、口々に”昼間テレビでJohn Lennonが
アパートの前で撃たれて・・・・”

夜半、ビリー･ジョエルはその日バイクを飛ばし、とあるバーで”in my life”を歌ってたというが、僕には5年振りの新作を遺作として聴いているこの日を恨みながら一人涙するしかなかった。

リアルタイムでビートルズを知らない僕にとってその解散は過去の事であり、完結した物として愛してきた。
しかし、John Lennon は同時代に生きてきた”人間”として愛していたのである。この死は辛すぎる。
彼は1962年ビートルズでデビューして18年後に死をむかえた。彼が世界に向けてメーセージを発信できたのはわずか18年である。
それからすでに20年が経とうとしている事を考えると、何と凝縮された人生を送ったのだろうか、何と素晴らしい遺産を僕たちに残してくれたのだろうか。僕も精一杯今日を生きていかなければと思う。

もう1度だけ夢をみさせてくれないだろうか？
ビートルズはあの時解散したから、より伝説化したかもしれない？
John も非業の死を遂げたから、よりカリスマとして崇められているのかもしれない？
でもドロドロになってもいいじゃないか、カリスマでなくてもいい、どんなに非難されても中傷されても、そこから這い上がってくるのが John Lennon なのだから。
あの日以降、彼がどんな歌を歌ったのか、どんな行動をしていったのか、どんな人生を送ることになったのか・・・本当に残念だ。”John の新作が聴きたかった”